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編集:大田拓、更新:2017 年 4 月 26 日

空気遠近法 - 富士山の雪が青く見えない理由 -


1.空気遠近法とは

遠くの山々は青く見え、さらに遠くにある山々は紫っぽく見えます。 この色使いを意識的に使うことにより、風景画の遠近感を強調することができます。
これが空気遠近法で、レオナルド・ダ・ビンチが最初に使ったことで知られています。
実際の山肌は青や紫ではなく、岩肌が露出した茶系の場合もあれば、樹木で覆われた緑系の場合もあります。 それにも関わらず、遠くの山々は青く見え、さらに遠くにある山々は紫っぽく見えます。これはなぜでしょうか。

2.光の散乱

この現象の理由として、一般には光の散乱が原因であると説明されています。
人間の目に見える光(可視光線)は、さまざまな波長の光で構成されています。その中で最も波長の長いものが赤で 620〜750 nm(nm はナノメートル)、青の波長は 450〜495 nmで、最も波長が短いものが紫で 380〜450 nmです。この範囲が可視光線で、それより長い波長の光は赤外線、それよりも短い波長の光は紫外線と呼ばれます。

ここからやや難しい話になりますが、物理学によれば、光は空気中を進むにつれて、空気中の水分や埃などで散乱されます。そして散乱される度合いは光の波長の 2 乗に比例します。 赤の波長は紫の波長の約 2 倍ですから、赤が散乱される度合いは紫に比べて 4 倍大きいことになります。
次に山肌の状態ですが、たとえば樹木で覆われた場合でも、緑一色ではありません。実際に風景画で樹木を描いてみればわかりますが、緑、青、茶、赤などさまざまな色で構成されています。 このような複雑な構成の色合いの山肌から出た光は、空気中を進むにつれて赤、黄、緑の順に、散乱されやすい色から散乱されます。 そして人間の目に届く時点では青や紫の波長の短い光だけが残り、その結果、遠くの山々は青く見え、そしてさらに遠くにある山々は紫っぽく見えるわけです。 これが従来の空気遠近法の説明でした。

3.富士山頂の雪

冬の晴れた日に、我が家のベランダから雪をいただいた富士山が見えます。その手前には丹沢山系が見えます。丹沢山系は青っぽく見えますが、富士山頂の雪は真っ白く輝いています。我が家から丹沢山系までの直線距離は約 30 km、富士山までの直線距離は約 70 kmです。
さて、ここで一つ疑問が湧いてきます。
プリズムの実験でよく知られているように、白色光線は赤から紫までの色に分解できます。つまり、赤から紫までの波長の色が混じって白が構成されているわけですから、上の散乱説によれば、富士山頂の雪から出た光も同様に空気中の水分や埃で散乱され、人間の目に届く段階では丹沢山系と同様に青く見えるか、または丹沢山系よりも遠くにあるため、紫っぽく見えるはずではないでしょうか。
しかし、富士山頂の雪は依然として白いままです。これはなぜでしょうか。
空気遠近法の説明を読んで以来、僕にはこれが大きな疑問として残っていました。 インターネットでいろいろ調べてみたのですが、この疑問に明快に答えてくれる記事は見つかりませんでした。

4.光の反射率

一般に自然界に存在する物体は自ら発光せず、太陽の光を反射することにより発光します。そして、太陽の光を全部反射するのではなく、その一部を吸収し、残りを反射します。受けた光のなかで反射する光の割合を反射率と呼びます。光の反射率を正確に説明するのはなかなか難しいのですが、大雑把にいえば、白い物体はほぼ100%(90%以上)光を反射しますが、白以外の物体は自身の色に近い波長の光をある程度反射し、それ以外の波長の光はほとんど反射しません。
たとえば、赤い物体は赤の波長の光を50%程度反射し、それ以外の波長はせいぜい10%しか反射しません。緑色の物体も黄色の物体も同様です。
つまり、富士山頂の雪は太陽光線をほぼ100%反射するのに対して、丹沢山系の山肌は太陽光線をごく一部しか反射しません。
次の図はこの状況を模式的に示したものですが、反射される光線の強さの違いに着目してください。

富士山頂の雪で反射された光線に比べて、丹沢山系の山肌で反射された太陽光線は非常に弱くなります。丹沢山系からの光が弱いということは、散乱の影響を受けやすいことを意味します。これに対して富士山頂の雪の白は、光線が強いため、多少は散乱されるでしょうが、丹沢山系からの光ほど、散乱の影響を受けないのでしょう。
この結果、富士山は丹沢山系より遠くにあるにも関わらず、山頂の雪が白く輝いて見えるわけです。

この考えは僕が最近になって思いついたもので、正しいかどうかは分かりませんが、僕はこれで納得しています。
なお、富士山頂の雪で反射される光線ですが、関東からはせいぜい100 km ですが、名古屋方面から見れば(見えるものと仮定して)光線の進行距離が増える分だけ散乱の影響が大きくなりますから、天候次第では青っぽく見えるかもしれません。
なお、光の反射と吸収については、以下のサイトを参考にさせていただきました。
http://www003.upp.so-net.ne.jp/hana-jun/color/hansha_kyuushuu.html

(2017-4-26)



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