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「毎日が酔曜日」http://wwwykk.sakura.ne.jp/
編集:大田拓、更新:2021 年 8 月 31 日

引き際を間違えた人たち


1.横浜市長選挙エピローグ

8名が立候補した横浜市長選挙は2021年8月22日投開票され、野党系候補の山中さんが勝利しました。投票率は50%に迫る勢いでした。

横浜にIR誘致の話が持ち上がるまで、僕は横浜市政に殆ど無関心でした。
しかし、2年前の2019年8月22日に、林市長が突然、それまで白紙としていたIR誘致計画を発表しました。これをきっかけにして、横浜のあちこちでカジノ誘致反対運動が巻き起こりました。僕は住民投票を求める運動や横浜市長のリコール運動に加わりました。
しかし結果は残念ながら、リコール運動は必要数(50万筆)の1/5にも届かず、住民投票を求める運動は必要数(6万筆)の3倍以上を集めたにも関わらず、自公が過半数を占める市議会に否決されました。 この時は、心底から挫折感を味わいましたが、思えば、この公約違反のIR誘致発表が、僕だけではなく、多くの市民にとって、市民運動に目覚めるきっかけになったと言えます。

林さん(さん付けもしたくないのですが)自身は当初から再選に未練タップリだったようですが、自民党の党紀により4選は推奨できないと、菅首相から実質的に引退を勧告されたとの報道を聞き、それで多くの人たちは林さんは引退するだろうと考え、自民党は彼女の代わりに誰を擁立するだろうと、そちらに主な関心が移りました。
そうこうしている内に自民党から立候補したのは、神奈川3区選出の小此木八郎さんですが、なんと、市長に当選したら「IR誘致を取り消す」ことを公約にしました。更に政府としてIR誘致を推進してきた菅首相がこれについて「分かった」と答えたとの報道があり、二重に驚きました。一体、自民党はどうなっているんだと思いました。

その後も立候補を表明する人や立候補表明を取り消す人がいて、最終的には、立憲、共産党、社民党その他のグループが推す山中さん、田中さん、松沢さん、太田さん(磯子区選出の横浜市議)らがカジノ反対で立候補しました。自民党の小此木さんはIR誘致を取り消すとの公約ですから、これで横浜のカジノは実質的になくなったなと安堵したのも束の間、林さんが自民党の引退勧告を無視して、地元の経済人に推される形で立候補を表明しました。

開票結果は、山中さん506,392票、小此木さん325,947票、林さん196,926票などで、山中さんの圧勝のような形ですが、小此木さんと林さんの合計は山中さんの得票をわずかに上回りますから、野党側が分裂せずに、保守が分裂したから勝てたことは明白です。

2.小此木さんの立候補の真相は?

選挙戦を振り返ってみると、小此木さんが立候補した経緯に興味があります。
小此木さんは、自らの意思で立候補したのでしょうか。
自民党衆議院議員で閣僚の一人でもある政治家が、自らその地位を捨てて横浜市長に立候補しようと考えたのでしょうか。
一般に、これは考えにくいことです。
以下は僕の推測にすぎませんが、菅首相から「ところで小此木さん、林さんの後を継いで横浜市長に立候補しないか。僕が全面的に応援するから」と話を持ちかけられたのでしょう。 小此木さんも流石に即答はできず、1週間くらい考えた結果、横浜ではカジノ誘致に反対する声が多いことを知っているため、立候補するならIR誘致を取り消し、IR誘致を選挙の争点から外すしかないと考えて「IR誘致取り消しを公約にしますが、それでOKなら立候補します」と答え、菅首相が「分かった」と答えたという報道になったのでしょう。

これは小此木さんのIR取り消し公約の内容が、最初の「山下埠頭へのIR推進はカジノ無しにする」から、「IR建設地を山下埠頭からノースドックに変更する」になり、最終的に「横浜のどこにもIRを作らせない」になったように、公約内容がころころ変わっていったことからも明らかです。菅首相から「立候補しろ」と言われて慌てて考えた結果だから、言うことが変わっていったのです。
自ら熟慮して立候補したのであれば、公約内容をころころ変えることなどありえません。

しかし、ここまでは菅や小此木にとって、想定内でした。
横浜へのIR誘致は、元はと言えば、トランプ大統領の時代にLVS(ラスベガスサンズ)のアデルソン会長から頼まれたことですが、その後LVSが横浜から撤退しているので、横浜IRを取りやめにしてもアメリカ側からは文句は出ないはずです。
理念も哲学も持たない菅首相にとっては、横浜へのIR誘致を取りやめても、横浜市長のポストを握っていれば、利権は将来に亙って確保できるわけですから、それでよしとしたのでしょう。
しかしその後、引退勧告を無視して林が立候補したのには流石に驚いたでしょう。これは想定外でした。
林の立候補については、地元の経済人に推された形ですが、実際はどうでしょう。 4選に未練タラタラの林が、IR推進で懇意にしてきた地元経済人の有力者たちに頼んで「立候補を要請させた」可能性もあります。

さらに自民党の横浜市議の反応ですが、36人中30人が小此木さんを支持し、残りの6人が林さんを支持しました。 自民党市議の内、林さんを支持した6人は筋を通したと言えますが、小此木さんを支持した30人は従来の主張から180度の転換です。2年後の市議選で、彼らは変節の代償を支払わなければなりません。

3.小此木さんのこと

僕は、小此木さんの選挙区(鶴見区、神奈川区)から遠い区に住んでいるので、小此木さんのことは殆ど知りませんでした。
今、僕が思うのは、小此木さんは菅首相の誘い(横浜市長選への立候補)を断れなかったのだろうかと言うことです。 おそらく、断れなかったのでしょう。
菅首相は、影の横浜市長とも呼ばれる存在で、総理大臣です。その上で「市長選に出ないか、僕が全面支援する」と言っているのですから、言い方は勧誘でも、実質的に命令に等しいでしょう。

さらに、神奈川県出身の政治家には、河野太郎や小泉進次郎などの若手が実績を積んでいます。それに対して自分(小此木)は自民党の要職を歴任しているもののすべてに「副」が付き、閣僚と言えども末席相当の国家公安委員長。 そういう状況の中で、人口370万の横浜市長なら悪くないと考えて、ここで一発勝負に出る決断をしたのでしょう。
ただ、IR誘致に関しては自分の名付け親でもある藤木さん(ハマのドン)が真っ向から反対しています。 その藤木さんと対立してIR誘致を推進することはできません。 したがって、出るなら「IR取り消し」にならざるを得なかったのでしょう。 菅は、林は諦めて引退するはずだから、俺が全面支援の号令をかければ、小此木は確実に当選できると思ったのかもしれませんが、この判断が甘かったということです。
結果的に、小此木さんはピエロのような役割を演じてしまいました。
菅首相は、意図したわけではないとしても、お世話になった代議士(小此木彦三郎)の息子(小此木八郎)に大恥をかかせたわけですが、そもそもの原因は、横浜市民を舐めてかかっていたからです。いつまでも影の横浜市長気分でいたら大間違いです。

4.林さんのこと

さて、林さんですが、一般には横浜市長を3期も勤めれば、その後は勇退して悠々と余生を送ることができたはずですが、さて、彼女はどうでしょうか。
IR誘致を発表する前の市長の仕事ぶりを知らないのですが、3期12年間で彼女は何をしたのでしょうか。
たとえば、政令指定都市で中学校に給食がないのは横浜だけだそうです。中学校給食について横浜市はハマ弁でごまかしていますが、3期12年もあればコンビニ弁当ではなく、手作りの温かい給食を子供たちに食べさせられるように、その気になればできたはずです。しかし、彼女は何もしなかった。 彼女は、子育てには冷淡で、役人が決めたことをそのままOKしていただけでしょう。

また聞くところによれば、行政上の大きな事項はほとんど官邸(=菅)にコントロールされていたようです。
副市長の任命も事前に官邸の了解をもらわないとできないようでした。 これは、副市長は市長が議会の同意を得て任命する規則ですが、自民・公明が過半数を占めている横浜市議会に菅が大きな影響力を持っているためです。したがって、官邸(菅)から「あいつを通してやれ」の電話を市議会議長(自民市議)にしてもらえないと議会の同意を得ることができなかったからです。
たとえば、今の横浜市議会議長は自民党の清水 富雄さんですが、彼のHP(http://shimizu-tomio.jp/sample-page/)には、尊敬する人物として菅義偉衆議院議員と書かれています。臆面もなくよくも書けるなと感心しますが、尊敬する人物からの指示なら、 そりゃあ、何でも言われた通りにするでしょう。 こういう仕組みのため、林さんが頻繁に官邸に通っていたとの報道もあります。
まったく情けない市長でしたね。

またIR誘致ですが、世上のうわさでは、彼女は本心ではやりたくなかったようです。それが官邸からの圧力で無理やりやらされたそうです。
2年前の8月22日に、記者会見してIR誘致を発表しましたが、記者発表の後で、配布した資料を後に放り投げる姿が YouTube で公開されましたが、あれは「意に反して遂にやってしまった!!」という自責の念や後悔の気持ちからだったのでしょう。
やりたくなければ、(市長選立候補のように)官邸の意向を無視し、それで官邸から嫌がらせを受けるようなら、きっぱり市長をやめればいいのに、と僕は思います。そうしていたらもっと新たな人生が開けたはずです。
この人こそ、引き際を間違えましたね

最後に一つ林さんの功績を挙げるとすれば、それは横浜市の行政から漂う腐敗臭や非民主的な側面を見える化(=可視化)したことでしょう。
もっとも、こういうのを功績とは呼ばないかもしれませんが。

(2021-8-31)



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