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翻訳の仕事をしていた頃に、Celtic Woman が東福寺の夜景をバックに歌う「You Raise Me Up」をYoutube で見て、その美しさに感動しました。そして、その歌詞を自分で訳したものをHP(毎日が金曜日)にアップロードしました。その後、僕の訳詞をネットで見つけてくださった佐々木美穂さんから申し出があり、「コールエバーグリーン」というコーラスグループに歌ってもらうことになりました。
最近、HPのサーバーを ODN から sakura internet に変更したのを機に、翻訳関係の記事は削除したのですが、この話だけは残しておきたいので、以下に記事を再掲します。
(2023年12月20日)
最近、YouTube を見るようになりました。
特に素晴らしいと思うのは、Celtic Woman が東福寺の夜景をバックに歌う「You Raise Me Up」です。
紅茶の宣伝でも歌われていますが、Celtic Woman のものとは相当雰囲気が違います。
まだご覧になったことのない方は下記をクリックして、是非一度 YouTube で聴いてみてください。
ここをクリックすれば、聴けます。
英文の歌詞は平易な単語で書かれていますが、ピュアな雰囲気があります。こういう英語の歌詞をその雰囲気を維持したままで日本語に置き換えられたらいいなあと思って、訳してみました。
原文の詞は次の通りです。
When I am down and oh my soal so weary
When troubles come and my heart burdened be
Then I am still and wait here in the silence
Till you come and sit a while with me
You raise me up so I can stand on mountains
You raise me up to walk on stormy seas
I am strong when I am on your shoulders
You raise me up to more than I can be
これを次のように訳してみました。
悲しい思いに 沈むとき / 苦しいことに 悩むとき
静かに想う あなたのこと / わたしの傍に すぐに来て
あなたとなら 険しい山も / 嵐の海も 越えていける
あなたといると 強くなれる / あなたの愛が 支えてくれる
一応、原詞の意味を尊重しながら、愛の歌らしい訳に意訳しました。原文に忠実すぎると歌詞にならないし、極端な意訳ではオリジナルな作詞になってしまうし、訳詞はなかなか難しいものですね。
7番目のフレーズの「on your shoulders」は肩の上に乗る、ということではありません。肩は寄りかかる=頼ることのできる対象を意味します。藤原正彦さんの「若き数学者のアメリカ」に、「I need a shoulder which I can cry on」(私は寄りかかって泣ける肩が欲しいのです)の一節がありますから、これは頼り頼られる男女の仲を指すと解釈すべきですね。
特に難しいのは最後のフレーズです。直訳すると、「あなたは私を私の実力以上に引き上げてくれる」ということですが、女子マラソンランナーとコーチの関係みたいですね。「私の実力以上」とはどういうことでしょうか。悲しみや苦しみに耐えて生きていける、ということでしょうか。それなら「苦しいことにも負けないわ」なんて歌詞になりますが、これではラブソングにはなりません。
結局、ここは「悲しみに負けずに私はあなたと生きていく」くらいの意味でしょう。そう解釈すると、「あなたの愛が / 支えてくれる」くらいの訳が適当ということになります。
詞の訳と同様難しいのはタイトルの訳ですね。「You Raise Me Up」のタイトルはどう訳せばいいのでしょうね。「あなたの支え」なんて古すぎるし、うまくない。
「Raise」は「引き上げる」意味で、「沈没したタイタニック号を引き上げる」ような使い方をします。この場合は「(精神的に)落ち込んだ私を引き上げて」の意味でしょうが、上手い日本語は見つかりません。やっぱりタイトルは「ユーレイズミーアップ」とカタカナのままにしましょうか。カタカナの訳にすると無能さを曝け出しそうですが、やむを得ません。
余談ですが、タイタニックの主題歌でセリーヌディオンが歌った「My Heart Will Go On」の訳は上手いと思います。これは「私の思いは募るばかり」と訳されています。
ところで、東福寺は豊臣秀吉が第一子「鶴松」を亡くした時に、ここに駆け込んで大声で泣いたといわれているお寺です。大切なものを失った悲しみの象徴のような場所で Celtic Woman に「You Raise Me Up」を歌わせたプロデューサーも大したものです。
なお、東福寺の話は司馬遼太郎の本からの受け売りです。
茨城県土浦市に「コールエバーグリーン」という名前の視覚障害者の混声コーラスグループがあります。
このグループを長年指導している「佐々木美穂」さんから、2015 年 5 月にメールをいただきました。
メールの主旨は、
1.僕の訳詞の「You Raise Me Up」を使って、コーラスグループで歌いたい。
2.しかし、このままでは曲に乗りにくいので、一部を変更したいが、よろしいか。
というものでした。
僕は曲に乗せることを考えないで訳したため、多分このままでは歌いにくいのでしょう。
さらに、僕が趣味で翻訳し、ネット上で眠っていたものを有効活用していただけるというのですから、僕が断る理由はありません。「どうぞご自由にお使いください」と、僕は佐々木さんの申し出を快諾しました。
その結果、次の素晴らしい訳詞になりました。
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悲しみに沈むとき / 苦しみに悩むとき
静かに想う あなたを / わたしの傍に来て
You raise me up 険しい山も / You raise me up 嵐の海も
わたしは強くなれる / あなたが支えてくれる
You raise me up あなたがいれば
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佐々木さんのおかげで、こんなに良い訳に仕上がったため、訳詞は「大田拓と佐々木美穂」の共訳にして点字楽譜に名前を入れてもらいました。
今年 12 月の茨城県・障害者文化祭での発表を目指して、現在練習が進んでいるようで、僕としても楽しみにしています。
【注:この訳詞の著作権は大田拓と佐々木美穂にあります。】
(2015 年 9 月 4 日 追記)
You Raise Me Up 日本語版の続きを紹介します。
その後、「コールエバーグリーン」の皆さんは練習を重ね、2016年2月、土浦市の県南生涯学習センターでの『まなびフェスタ』で「You Raise Me Up 日本語版」を歌ってくれました。
僕はその時の音声ファイルを送ってもらいましたが、素晴らしい曲に仕上がっています。Celtic Woman の女性だけのコーラスも美しいのですが、Call Ever Green の女性コーラスと男性コーラの混声4部合唱には、女性だけのコーラスにはない力強さと美しさと心地良さがあります。
僕は、趣味で翻訳した時点では、これほど素晴らしい曲になるとは夢にも思っていませんでした。繰り返し聴き、聴く度に感心しています。
また最近では、愛知県の高校や、茨城県の教会でも歌われているようです。
いずれにせよ、この曲が長く歌い継がれることを願っています。
この歌を関係者がパソコンで楽しんでいるだけではもったいないので、関係者の承諾を得た上で YouTube にアップロードしました。
ここをクリックすれば、聴けます。
なお、混声 4 部合唱の楽譜をご希望の方は、ohtataku@gmail.com までご連絡ください。
(2017 年 4 月 15 日 追記)
(2022-9-3)